杜 いづみ 作


サンタの長ぐつ








サンタクロースが貧しい家の子供に煙突から金貨を投げ込んだら、ぬいであった長ぐつに入ったという言い伝えから、 クリスマスのプレゼントは長ぐつやくつ下に入れるという習慣が生まれたのだそうです。

これはサンタ自身の長ぐつのお話です。

サンタは毎年クリスマスイヴになると、子供たちにプレゼントを運ぶ仕事に一生けんめい励みました。 いつの間にか髪は真っ白になり、あごひげもひざに届くほど長くなりました。

大好きな楽しい仕事でしたが、年を取ったサンタには、冷たい夜空を飛んだり、雪の中を歩いたりするのは 年々つらくなっていったのでした。

その日はいつでも、サンタは赤い服と帽子と手袋と長ぐつを身につけて、子供たちの家を回るのでした。  帽子や服はそれほど汚れませんが、長ぐつは雪の中をはいて歩くのでどうしても汚れていたみます。

サンタは雪がしみ込むようになった長ぐつをながめて、ため息をつきました。
「長ぐつもわしも、だいぶくたびれたな…」

ある年の冬、サンタは神さまにそろそろ次のサンタに交代してもらえるようお願いに行きました。  この仕事を始めたばかりの頃にプレゼントを間違えて配って以来、2度目のお願いでした。

神さまはしばらくサンタを見つめて黙っていましたが、少し待つようにといって奥へ消えました。  やがて戻ってきた神さまの手には、新しい長ぐつがありました。 
「これは特別暖かい長ぐつだ。 もうしばらく働いてもらおうかね」

神さまにそういわれては従わないわけにはいきません。 サンタは苦笑いをすると、赤いきれいな長ぐつを 受け取りました。

その冬のクリスマスイヴのことでした。 サンタはもうひとがんばりしようと身支度をしました。  そして、新しい長ぐつをはこうと持ち上げてみると、何やら中に入っている様子でした。

「おや? 何か入っているぞ。 もしかして、わしにプレゼントかな?」
サンタが不思議に思って明るい所で中をのぞいてみると、何か白いものが動いているようでした。

よく見ると、それは小さなハツカネズミの赤ちゃんでした。
「おやおや、4匹もいるぞ。 こいつは困った…」
サンタが長ぐつをそっと床に下ろすと、柱のかげから白いものがこちらをうかがっているのが見えました。

「おかあさんかい?」
サンタがそういうと、柱から顔を出したハツカネズミが小さくうなずきました。

「安心していいよ。 これは当分きみたちに貸してあげよう。 わしは古いのをはいていけばいいさ」
お母さんネズミはほっとしたようにサンタにおじぎをしました。

サンタは奥から古い長ぐつを出すと、それを履いて出かけました。  長ぐつは雪の中を歩くと水がしみて冷たくなるのでした。 足の先はかじかんでしもやけになりましたが、サンタはだまってせっせとプレゼントを運びました。

次の年のクリスマスイヴでした。 サンタが今年ははけるだろうと、新しい長ぐつを持ち上げると、また何か入っているではありませんか。
「おや? またかい?」

サンタが中をのぞくと、白いものがひょっこり顔を出しました。 それは小さなハツカネズミの子供たちでした。

両方の長ぐつに2匹ずつ入っていたネズミは、サンタの顔を見ると、口々にこういいました。
「ぼくたちをいっしょに連れていって!」

驚くサンタにはおかまいなく、ネズミたちは長ぐつを飛び出すと、サンタの赤い服の左右のポケットにもぐり込みました。  もうこうなってはいっしょに連れていくしかありません。 サンタはポケットをおさえてホッホッと笑いました。

それから新しい長ぐつに足を入れたサンタは、驚いて叫びました。
「おや?! なんてあったかいんだ!」
長ぐつはネズミが入っていたのでポカポカに暖かいのでした。

サンタは神さまから新しい長ぐつをもらった時、「特別暖かい長ぐつだ」といわれたことを思い出して、大きくうなづきました。

その晩、サンタはいつになく元気でした。 長ぐつは雪の中でも暖かく、ポケットのネズミがぬくぬくと身体を 暖めてくれるのでした。

それ以来クリスマスイヴになると、代々ハツカネズミの兄弟がサンタを手伝いにやってくるのでした。 そしてそれからずいぶん長いこと、サンタはこの仕事を楽しく続けたのでした。

おわり

(c)mori izumi


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